特別教授の挨拶

私は行政医・公衆衛生医を23年経て、総合診療医になるべく当講座で研修し今日に至ります。前半の医師人生で、疾病予防、総合医構想、医師不足問題、医療提供体制、在宅医療等に制度面から取り組んだことを、学問体系的に整理された臨床の面から取り組んでいる感があります。「総合診療科」は未病・予防にまで取り組むことができる「扱う問題の広さと多様性」のある診療科です。ブラック・ジャックやDr.コトーでなくても、日常的に頻度が高く幅広い領域の疾病について、適切な初期対応をして他領域別専門医と連携し、必要に応じて継続医療を全人的に行う医師が、地域でどれだけ必要とされていることか。私にとって、臨床のスタートが年齢的に遅かったため「深さ」を求める専門領域を選択しづらかったというのもありますが、今後の社会や地域住民に必要とされる診療科と出会えてよかったと感じます。もっとも「総合診療医」は「家庭医」だけではなく、急性期病院での専門領域の枠を超えたホスピタリスト「病院総合診療医」として、私たちの仲間が活躍しています。こうした急性期病院から在宅医療まで幅広く活躍の場があるのも「総合診療医」の醍醐味です。

ところで私たちの講座は、県が寄付者であり、「地域医療に関する教育研究を通じて、医学部生に地域医療への関心を喚起するとともに、地域医療に志を持つ医師のキャリアアップ等について支援することにより、へき地医療をはじめとする県内各地において地域医療を担う医師を養成・確保する」というミッションを与えられています。すでに、医学生の講義(1~2年生)や地域医療実習(4~5年生)・地域包括ケア実習(5~6年生)は取り組んでいます。今後は、さらに後期研修以降についても、領域別専門医に関わらず、地域医療に従事する医師の支援に取り組むことになります。

宮崎県は、宮崎市周辺を除いて、外来需要のピークはすでに過ぎ、入院需要も今後5年の間にピークを迎えます。このように変革する社会にあって、地域医療をどのように確保し地域包括ケアを展開していくのか。
これをご覧になっている皆様が、地域医療に関心をもっていただき、ともに地域を描いていく。総合診療に関心をもっていただき、派手さはないかもしれないが地域住民の安心と笑顔を紡いでいく。この満足感をご一緒できる日を楽しみにしています。

宮崎大学 医学部 地域医療・総合診療医学講座 特別教授 伊東 芳郎